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少女、エルファはきまぐれだった。親も身よりも誰もいなく、たった一人。たった一人でこの大きな森で生まれ、自然の恵みを一身に受けて育った彼女は、何ものにも縛られず、自由気ままに生きてきた。時に、木の実を食べ、時に、動物たちと会話をし、時に空を飛んで、風と戯れた。ずっと一人で生きていた。誰もいらなかった。何もいらなかった。この森さえあれば。時々、迷い込んでくる人がいれば、森の外へ案内してあげたこともあったが、それだって、単にこの森から早く出て行って欲しかっただけだった。そのせいで、この森には神様がいるだとか、勘違いされた時もあったけど、特に害はないようなので、気にする必要もなかった。エルファはただ、エルファとして、この生まれ育った森と一緒にいるのが好きだった。それだけのことだった。だけど、『彼』は、彼女にとって、唯一の例外だった。そうエルファはきまぐれだった。
「ねぇ、君は何て言うの?」
『彼』はそう彼女に聞いてきた。人は、自分に会えば、まず驚くか、怯えるかのどちらかだと思っていたので、意外な反応に驚き、戸惑った。おずおずとした調子で彼女は「エルファ」と、名乗った。『エルファ』はこの森の名前だった。彼女には名前なんてものはなかったから、森の名前を貸してもらった。しかし、それにしても、この少年は不思議なものだった。怯えるどころか、握手を彼女に求め、友達になって欲しいとまで申し出てきたのだ。思えば、人間の子供を見たのも彼が初めてだったかもしれない。きまぐれなエルファの興味を引くには、それだけで充分だった。
だから、これもきっときまぐれ。エルファは、そう心の中で自分に言い聞かせる。胸には弱りきった少年が抱かれていた。顔は青ざめて、首からは多量の血が流れていた。
「呪いに掛かっている。この命、そう長くはないか……」
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