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「……なあ、お嬢さん……なあ……。ええ加減起きてくれんと、わいがどやされるんやけど……」
桜の前に屈む人物は、ふっと溜め息をついた。
「……勘弁しいや……。ええ加減起きんかい!!」
「……ひっ!!」
怒鳴りつける声で桜は飛び起きるが、目をまん丸とさせた。
……誰……
目を擦る桜の様子に屈む人物は、再び溜め息をついた。
「朝から声張り上げる身にもなってほしいもんやわ」
「毒や……」と、ぼやけば「わいは、鶏か」と何を思うか……ぶつぶつと一人のりつっこみのような言葉を漏らしながら腰をあげる人物は桜を見下ろした。
「その蒲団。誰が運んで来たもんか知らへんけど、ほんまお人好しが揃いも揃うて……」
溜め息が再び出る人物は、漆黒の着流しを揺らしながら鋭い眼光を桜に向けた。
「あながち沖田さんやろうな……」
「……沖田……さん……「こっちの話やけど。ついて来てもらってええ?」
「……はい……」
言うしかなかった。
淡々とした口調を放つ人物の後を追うがヒールを履きながら、石段にそれを揃える桜の様子を廊下から見下ろす人物は、再び廊下を歩きはじめた。
「逃げへんのやな」
……逃げるってどこに……逃げますって言ったら逃がしてくれるの……そんな雰囲気でもないし、目つきじゃないですよね……
「無視かいな、まあええわ」
逃げてもいく場所がないし、ここどこよ……
関西弁ってこの人、大阪の人……?
待って待って……本当……待ってよ……
「すみません。江戸時代なのは百歩譲って分かったんですけど、此処は何処ですか」
「……はっ?知らずにおったん?あんた。まあ、直ぐに分かるわ」
「……いや、あの「山崎です、連れて来ました」
「下がってくれ」
「承知」
中から聞こえた土方の言葉に山崎は、踵を返すが、桜は一人呆然とその場に立っていた。
……私一人だし……ちょっと待って……昨日と部屋が違う……
何かするの……ちょっと待ってちょっと待って私、昨日お風呂入ってない
化粧も落としてない……鏡とかないし……あぁ悲惨な顔かも……
それに何この立場……私なんかした……訳分かんない……
なんか考えるのも面倒くさい……
桜は、無造作にくしゃりと頭を掻いた。
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