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芹沢鴨。
その名に過敏に反応を見せる四人の姿は、余計に確信づける。
カチャリと鯉口を切る音が聴こえるのは、この時代の自然な動作だ。
土方の動作に桜は身震いがする思いだが、口を開いた。
「文久三年の9月に芹沢さんは亡くなっていますよね。
ここにいる方以外に、原田さんの手によって暗殺された。私のいた時代ではそう伝わっています」
「……どっからその情報が漏れた」
「この四人が喋る訳がないだろ……」
「だがもう長人の連中は知ってる件だ」
土方の眉間の皺は深くなる一方だが、対応する近藤も言葉が続かない。
部屋は沈黙という名の困惑が流れる。
眼鏡の奥底に曇る色が見える人物ーー山南は一瞬、畳に視線を落とした。
『……なんで先生……。なんで……。』
゙……あなたは本当に……それとも……″
ただ一人、総司だけは桜の姿を瞳に映していた。
「豊玉発句集」
「……はっ?」
桜は不気味に笑うと土方は桜を睨んだ。
「信じてもらえなくてもいいですよ。言っちゃいますから……。梅の花 一輪さいて「待て。お前なんでそれを知ってやがんだ!!」
「……土方さん土方さん!!あの句集を知ってるんですから嘘ではないでしょう」
焦る土方をしり目に、総司は笑い続けるが近藤や山南は、訳が分からないようだ。
「……句集はよく分からんが、身なりもさることながら君は、到底間者には見えん。
尋問が身につき気分を害したらすまない。
密命の件もさることながら訛りもなく、似つかわしくない言葉も使うようだが、行き場がないんだろ。ここはひとつ君に賭けそれを信じよう」
……えっ……
近藤の言葉に桜の目が土方に向くが、その土方は何も言わず視線を外した。
「そうやってつんけんするから誤解をうけて「てめえは黙れ」
がやがやと賑わう光景から、桜は一つ瞬きをすれば畳に視線を外した。
……御人好しなの……此処にいる人は……
父の遺した本……。
それを桜は何年か前まではよく見ていた……。
その記憶力は今だ健在だったが、父が好きだった新撰組……。
それは本を見ることで、父の面影を探していたのかもしれない……。
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