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「あっ……」
沖田は駆け寄るが桜は、構わず歩いていく。
「ちょっと待って下さい」
「だから何か用?話は終わったはず」
「話は終わっても行くとこなどないでしょう。私達は貴方を保護する責任がある。
女中の方は確かに、住み込みの方は居ませんが近藤さん達も貴方の事を心配しています。その身なりはあまりにも街にそぐわない」
「でしょうね。江戸時代ですもんね此処……」
「一先ず中に入りましょう。着替えも雅さんに頼んでみますから、着物をきて下さい。先のことも身柄のこともそれから考えましょう」
沖田は桜を伺うが、桜は首を横に振れば踵を返した。
「何故。私達は「気遣いだけで、充分。特別扱いはいらない」
「特別扱いなど「本当に充分。そういうのいらない。それに、疑ってるでしょ、人の信用ってそんなに簡単にえられるものじゃないし。
目が疑ってた。今も疑ってるでしょ、間者だって。人ってそんなもん。綺麗な生き物じゃない。
保護ってなに?監視のこと?間者だったら斬るんでしょ。
本当に信じてたら、御人好しだけど。死のうが生きようが関係のないこと。放っておいて」
線を引こうとする仕草が伝わる。
一線も二線も線を引く様子に沖田は眉を寄せたままだ。
桜は、視線を外せば。
「……ごめん。八つ当たりみたいになって。ごめん……。
おにぎり美味しかった。ありがとう沖田さん」
沖田は眉を下げ、ただ桜を見つめていた。
軽く頭を下げた桜は、視線が交差することもなく歩いていく。
桜の花がヒラヒラと舞えば、風が吹くごとに茶色の髪の毛と漆黒の髪が揺れる。
花が舞い落ちる中、沖田は止める言葉も見当たらず、桜の姿が見えなくなるまでただ……その場で後ろ姿を見つめていた。
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