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「山崎、報告はねぇのか」
近藤の部屋から自室へと戻って来た土方は、煙管を吹かす最中だったが……山崎は土方が戻る前から既に部屋の中に存在していた。
新撰組監察方の山崎は、島田と共にその役職に身を置く。副長助勤の彼は冷静沈着な人物だ。
密偵……変装と言った裏芸も持ち針医家の生まれと言われている。
「情報も何も昨日の今日で、すべては難しいですが、長州に望月の姓はなきにひとしいものですよ」
土方は昨夜、桜が自分の部屋から出た後、山崎に桜の情報を調べるよう伝えていた。
宙を仰ぐ土方は、目に入る煙をけむたそうに手で扇いだ。
「……そおか……。引き続き望月桜の情報を集めてくれ」
「承知しましたが、土方さん。野暮な話ですが彼女も黒な場合、連行で宜しいですか」
「連れてこい。密接してんなら同じで構わねえよ」
芹沢派の暗殺は密命で実行された件だ。
何故……それを知るかだ。
攘夷志士の一部しか知らぬ件であり、ネックはそこだ。
「承知しました」
山崎は、部屋を出ようとしたがふと足を止めた。
「句集は私も見たいものです」
山崎から出た言葉に土方はむせはじめるが、その様子に山崎はふっと口許に笑みを浮かべた。
「……聞いてやがったのか」
「たまたま耳にしたものですから」
「腹が相変わらずくれえ(黒い)やつだな。その喋りも窮屈じゃねえのか」
「立場の時は、徹底しなければ混濁しますから」
山崎は、部屋を出ていけば土方はふと煙管の灰を火鉢に捨てた。
ふんと鼻で笑いながら、歯で煙管を噛めば一息吐き出す。
「てめえも半々か、山崎」
土方は、一息つきながら引き出しをひけばそこに存在する代物。
それを見ながら瞬きを一つ。
「……なんで知ってやがる……。総司か……。んな訳ねえか」
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