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イライラしながら桜は人目の多い道を避け、現代で言う路地裏のような所を歩いていた。
「なあ……。ちょっとまちいなお嬢さん」
「……えっ…?私?」
不意に後ろから声をかけられた桜は、ゆっくりと振り返るが、そこには、着流しを緩く着こなした背丈のある男が一人。
黒い着流しを纏う体格のいい男は、
笑っているが桜の警戒は嫌でも放つ。
……誰……
「あんた異人さんかい?」
「……日本人ですが」
「藩はどこだ」
「……藩?てか藩とか出とかわけわかんない。なんなの本当にさっきから。日本人で東京が生まれなだけでしょ」
「……なに言ってんのかわかんねえが、なに怒ってんだ」
「もう怒りたくもなるしマジで」
「……マジでってなんだ。
身なりも変わって変な言葉使うが、どっちでもいいな……」
なんなのこの人……話が通じないしなんなの……もうわけわかんない
男は喋りながら桜の目の前に立っていた。
身の危険を放つ時、気持ちとは裏腹身体は動かないものだ……。
少しずつ後退りするが、桜は男から目が反らせない状況が続いた。
「……えっ……。っ!!」
腹部に感じる強烈な痛み。
見れば、男の差す刀の鞘が桜の腹部を突いているではないか……。
よろめく桜の身体を、男はとっさに支えるようにしながら、腕を握れば担ぎ上げた。
「わりいなお嬢さん……。あんたは高く売れるよ……」
……売る……殺されるの……
遠退く意識の中、その言葉は確かに聞こえた……。
゛手荒ですまねぇな……急いでんだよ″
「……早いとこ行かねえと殺される……。張り手は勘弁だ」
小走りに走りだした男の姿は、その場から消えて行った。
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