▼▼歩む道▼▼

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゛気立てが良い子だね……。身なりは変だが……″ 女将は、ふんと口許を綻ばせた。 「あんた面白いねぇ。その教養は誰に教わった。異国の地でもあるのかい、その礼儀作法は。気に入ったよ」 ……面白い?なにが? 沈黙のあと女将は一人笑い出し、桜とお沙耶は不思議そうにその姿を見つめていた。 「名もいいものを貰っている。混血児かい」 「……いえ、生粋の日本人です」 「……その身なりで生粋か。まあいい。桜……。あんたはここに来た事、後悔してないかい?人拐い紛いでも売られりゃ最後、そんな子が殆どだ。事情を抱えながら自ら足をいれる子もいる。入れば最後。逃げれやしないよ」 ……後悔…?後悔なんてない した所で行く場所などない……。桜の中で覚悟は決っていた。 「後悔なんてありません。心配してくれるような人はいませんから」 ゛……親がいないか……目が死んでる……変な所を見てきたか……″ 女将は目を細めた。 濁る桜の瞳……。 何十年も女の世界で生きてきた女将には判断出来た。それは嫌でも分かるものだった。 「……そおかい……。本当は下働きから始めるのが普通なんだけどねえ……。 もって生まれた武器を使わないものほど惜しいもんはない。 親に感謝することだ。 座敷に出てもらうからね、今日から美鏡屋の天神、桜として働いてもらうよ。歳は幾つだ」 「二十歳です」 「ならいい。二十中盤は遊郭じゃあ御払い箱。舞や茶などは追々私が教えるから最初はお酌やお寝やを共にすればいい。ここにいる禿のお沙耶が身の回りの事をするから後の事は聞きな」 女将そう言うと立ち上がり、部屋を出ようとしていたが、不意に首を横に向けた。 「ここにいる子はみんな何かしろ事情があっているんだ。餓えで苦しんだ子たちも今や太夫や天神。重鎮共は破格の値段を払ってもそれを必要とする。 困った事があったらいつでも私に言いな。それにここにいる限り桜、あんたは私の娘だよ。皆そおだ。私の自慢の娘ばかりだよ」 ふんと微笑む女将は部屋を出て行った。 ……娘……こんな私を…… 襖を見つめる桜は、その言葉に目頭が熱くなるのを感じていた。 それ位、女将の言葉は嬉しいものだった。
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