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女将を見送るお沙耶は、固まったままの桜を見れば笑みを漏らした。
「女将さん桜さんの事気に入ったみたいですね。ああ見えて、優しいんですよ。お母さんですから」
「……お母さん?」
「私達は、女将さんの事をお母さんと呼んでいます。姐さんしかそれは呼べませんが」
「……色々あるみたいだけど……。ねえ桜さんじゃなくて、桜でいぃよ」
「お付きになってる人にそのような言葉駄目です!!」
「……駄目なの」
そんなに厳しいの……?でもこの子……可愛い子……必死になって……
思わず顔がにやける桜だが、お沙耶は困ったように桜を見たり、また目を反らしと、それを繰り返していた。
桜は、布団から身をのり出した。
「じゃあそんなに歳離れてないでしょ。姉妹ぐらいだし、その桜さんはやめて、桜姉さんは?お沙耶ちゃんは何歳?」
゛……姉妹……姉さん……″
その言葉はお沙耶の目を見開かせ、口元が緩んでいく。
「今年11になります。では……。御言葉に甘えて桜姉さんって呼びますね」
「うん……。私もお沙耶ちゃんじゃなくてお沙耶って呼ぶから」
お沙耶は頬を赤くしながら頷いたが、まだまだ幼さが残る顔立ちは、可愛らしさが残る少女。
黒髪に赤いの着物は見栄えがよく、髪の毛をお団子にするお沙耶は軽く頭を下げながら。
「私は朝餉を用意して来ますね。湯の様子も見てきますので」
お沙耶は再び軽く頭を下げると部屋を後にした。
見送る桜は一人、布団を力強く握った。
……結局この仕事しか出来ない……でも私はこの美鏡屋で生きて行く……この時代で生きる……
それは強く心に誓った日になった。
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