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いつもの客引きが賑やかな場所に戻っていく商店街。
その一角の惣菜屋で先程の4人を、ひっそりと追走していた探偵もどきの影があった。
「僕は住宅街に行くから、アユムは河原の方をお願いね」
一人はダメージキャップにクラッシュデニム。橙色の目立つパーカーを着ている小柄で童顔な少年。
「了解。やれるだけやってみる」
それに答えたのはアユムと呼ばれた少年。
名は見道 歩。
表情には緊張を同居させている。
「リラックス、リラックス。何かあったらこのカケル様にすぐ連絡しなよ」
身体を硬直させて顔をこわばらせている歩が纏う白いジャケットの背中を、駆は励ますように叩いた。
彼の名は、来島 駆。
なおもおちゃらけた様子で、肩を両手で掴み身体を揺らしている。彼なりの緊張の解し方なのだろう。
駆は帰宅途中の人達の中に紛れ、先程学生達が走っていった住宅街の方へと消えていった。
惣菜屋の前に取り残された歩は、光沢の少ないショートシャギーの髪の毛を風に揺らす。
前髪の裏側に光る灰色の瞳を、一度まぶたの裏に隠した。そして、吐き出す息と共にゆっくりとまぶたを開く。
立ち並ぶビルの側面が、途切れた先には河原がある。朱を帯びている空が、辺りの草木を染め始めていた。
覚悟を決めた瞳を空に向ける。
「あんちゃん、肉じゃがコロッケ2ヶで160円な」
2口で食べ終え、包んでいた紙をブルージーンズの脇で力強く握りしめるのだった。
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