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午後3時の事。
高崎と書かれた表札がある門と、花に彩られたアーチをくぐり、2人が向かうのは夕暮れの商店街。
住宅が立ち並ぶこの辺りだと、今しがた出てきた高崎家はとても荘厳さがあった。
装飾こそ少ないのだが、くすみのない純白の壁が醸し出す家屋の雰囲気は、神秘的である。
高台から緩やかな下り坂になる歩道を歩きながら歩は、高崎家の中で一度脱いだ白いジャケットに腕を通していた。
「まあ、最初の内は簡単にはいかないからね。僕が側についててあげるよ」
後ろ向きに歩きながら駆がそんな事を言った。
「本当に俺みたいな奴が、こんな力を使い続けても良いのか?」
歩は自分の右手でジャンケンのグーとパーの状態を繰り返しながら、手のひらをマジマジと見つめている。
「《楔》は、血を受け継いでないとミジンも、その力を発揮出来ないんだ」
自分の左手の指を伸ばし、左右に軽く動かしながら歩に見せてやる。
視線は歩を見つめたままで、後ろ向きに歩き続けている。
時折、背中にぶつかりそうになる電柱を器用にかわしている駆。
「せっかく、《時の楔》の血が流れてるんだから使わなきゃもったいないよ」
《時の楔》
それは、人の運命の流れに何らかの影響を与えて、その本来の流れを変える力を持った人間……。
残された可能性だ。
そんなにかわには信じがたい力に、歩が本気になるのには少々わけがある。
それは、ある日を境に、最愛の恋人であった高崎 澪菜が眠り姫になってしまったからである。
「レイナ姉さんは大丈夫だよ。僕たちが頑張れば」
「ああ、そうだな」
失意の中に生きていた歩が、自分に出来る事を探す為に賭けてみようというのだ。
《時の楔》とやらに。
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