第1章 ながい眠り

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 繁華街はネオンにきらめいていた。  その中を歩が息絶え絶えで走り、5歩後ろからモップ頭が迫ってくる。  そんな2人の横をすれ違ってゆく人々はバテな髪と服装をした女。  横を通っただけで鼻に感じる香水のキツい男。  そして、有頂天の酔っ払い。  あまり歩の状況を気にする人はいない。  毎日何かしらの酔っ払い同士の揉め事が起こる繁華街だから野次馬気分で見ているのだろう。  モップ頭は執拗においすがる。。  よく体力が続くものだと呆れながら、歩はあきらめ始めていた。  あの少年を追い掛け回してた時から、もう1時間以上は走っているはずだ。  携帯電話をバトン代わりに握りしめたリレーのアンカーは、もう果てようとしている。 「やばい……も、もう駄目だ」  足がもつれ、頭から倒れた先には黒い袋に包まれた生ゴミ。  身体の力を抜き、だらんとした両手と両足で大の字を描く姿は、酔っ払いとさほど変わらない。 「観念するんだな。くたばりやがれ」  建物と建物に挟まれ、ちょうど周りからは陰になっているゴミ置場に、誰かがやってくる事はまずない。  歩は今度こそ覚悟を決めた。  歯を食い縛る。殴られた時に口の中が切れない様にする為に。
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