第1章 ながい眠り

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 歩がそんな事を考えていた時だった。  モップ頭の背中の向こう側に現れた人影を視界に捕えた。  ネオンに逆光する、髪型と身体のラインのシルエットから女性と判断出来た。 「あらお兄さん、体力が有り余ってるみたいね。私の店で遊んでいかない?」  キャッチの様だ。  この黄色い声色は間違いなく女性だ。  こんな状況下にいる男を、客として呼ぼうとするその接客魂に感心する一方、女の助けかと歩は後悔した。  女性ではモップ頭の拳を退けるのは難しいだろう。血に飢えたモップ頭のライオンを相手にするのは酷な話だろう。  それでもこの助け船に賭けてみよう。  歩は黙り込んで、モップ頭とシルエットの女のやり取りを見守る事にした。 「うるせぇよブス。こっちは今取り込み中だ。あっちに行け」  首をひねり、後方を見るモップ頭は悪態をつく。  それに直ぐ様反応した女は、モップ頭の首に手をまわして上目遣いの仕草をしはじめた。  まんざらでもないと思ったのだろうか。モップ頭は怒りを静めていく。  愛情劇でも始まるのかと、客引きの女に呆れながら見つめていると、小さく閃光が走った。  丁度、ぼんのくぼ辺りに。 「いつでもいらしてね。私、待ってるから」  モップ頭はさっきまでの闘争心を抜かれたように、トボトボと通りに消えていった。  何が起こったのか分からず唖然としていると、目の前にその女がやってきて、歩に色白な手を差し伸べる。  穏やかな柑橘系の匂いがした。 「遅くなってゴメンね。初陣は随分と大変だったみたいね」  間近で確認した女に歩は見覚えがあった。  くりりと丸く大きな薄いオレンジ色の瞳。  巻き髪になってる茶色の髪の毛。  相棒の駆とよく似ていた。  手を差し伸べた女は艶やかな朱色のドレスに身を包んだ駆の姉、希であった。
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