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「話が違うじゃねえかよ~、カケル」
横に合計5人の大人が座れそうな大きいソファに、天井を仰ぎながらぐったりと腰を下ろす。
同じ様なソファーが四角を描く様に4つ並べてあって、その内側には、輝くガラステーブル。
水の粒をまとったグラスには、渇いた喉に一気に流し込みたくなるオレンジジュース。
隣の部屋からは、お酒にはしゃぎまくる大人の男の声。
ここは、繁華街の一角にある希の勤務先のバーの店内である。
個室扱いなのか入り口はカーテンで区切られて、10畳程の大きさの部屋は彼らの貸し切り状態であった。
「いや、まさか動きが止まらないなんてさ。あんなイレギュラー、予想外だったから」
先程のモップ頭の件をはぐらかす様に屈託のない笑顔を振りまく駆。
愚痴のひとつでも言ってやろうかと思ったが、その幼さが残る顔に完全に歩は毒気を抜かれてしまう。
「はいはい、男の子がネチネチしないの。とにかくお疲れ様って事で、乾杯しましよう」
向かいあって座る2人の間に、希の言葉が割って入ってくる。
手慣れた手付きで飲み物に氷を入れてグラスをそれぞれの前に置く。
両手のひらを太ももの裏に通して、スカートを整えながら駆がいる方のソファーに座った。
カランという涼やかな音が室内に響いた後、歩は細長いグラスに入ったオレンジジュースを滝のように口に流し込んだ。
そんな様子を微笑ましく思いながら、希は歩に話した。
「楔の力について、もう一度説明してあげようか?」
力を使ったのが初日の後輩、そして弟の友達に対して、お姉さん風を吹かせる。
一連のことに未だ不慣れな同類に対し、優しく手解きをしようというのだろう。
マスカラを乗せた大きく丸い瞳で見つめる希の視線に、一瞬胸が高鳴ったのが分かった。
数分前のモップ頭も然り、相手を魅力する力は凄いものがある様だ。
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