第1章 ながい眠り

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「そんなに難しく考える事はないよ。だってこれは、単なるおまじないみたいなものだもん」 「おまじないですか?」 「そう。強く願えばかなっちゃう事ってない? 例えば体育の授業が嫌いな子が、高い跳び箱をとべちゃうとか」 「あ、その感覚分かるよ! 僕いつもそう思いながら飛んでたもん。中学を卒業する頃には7段は軽く飛べてた」  跳び箱の話を聞いたとたんに、駆が身を乗り出して来たので歩は目をしばたいた。  その勢いに合わせて、駆はあまり運動が得意ではないと知っていた歩にとっては、驚くべきことだったのだ。 「その願掛けの効果を鍛練によって効力や制度をあげたものが、《楔》になって力になるわけ」 「エスパーみたいですね」 「そうだね。私たちの場合は、生まれつき持ってた力みたいだから、実際に操れるようになった時は驚いたけどね」  来島姉弟──駆と希も代々を受け継いでいる様で、現代の世でも時折その力で暗躍している。  希の説明では、希を目当てでお店にやってくる男性客の2割りはすでに《楔》を打たれているそうだ。  永遠に希を指名してくれるお得意様。  その真実に気付かないのが、幸か不幸か。歩は苦笑いをするしかなかった。
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