第1章 ながい眠り

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 茶色の木目調の扉が目の前に見える。  玄関前では歩が、棒状のノブに手をかけようかどうか迷っていた。  すると向こう側から足音が聞こえて来た。家の主が客を招き入れるたむにドアを開いた。  中から出てきたのは黒髪の女性。光の加減で少し青が浮かぶ髪を腰の辺りまで伸ばして、白いフリル付きのドレス服を来た女性。  高崎 雫。澪菜の母親である。  目元に心労が見て取れる。表情にはあまり生気を感じないが、そんな中でも歩を笑顔で迎えてくれた。 「いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思ってたわ」  玄関から見える壁に立て掛けてあった時計は9時半を指す。  訪れる時間がちょっと遅くなってしまった事を心配したが、それでも歩を快く受け入れてくれるのは、雫が2人の関係を認知承諾しているからである。  薄いオレンジの灯りが包む廊下を歩み、突き当たりを右に行くと扉に札のかかったの部屋があった。  歩は毎日通いつめてはいたが、どうしても距離感がつかめないでいた。 「随分、穏やかな寝息を立てる様になったわね。さっきまでとは大違い。この子にも、あなたが来る事は分かっているのね」  通された部屋の南側の窓から、月明かりがもれている。その光が白いベットシーツを暗い部屋に浮かび上がらせている。  そこに眠る少女は冷たい表情のまま瞳を閉じている。  月明かりでそう見えるのか、未だに解放されない眠りから来るものなのか。歩には分からなかった。  彼女は未だに、歩には答えてくれないまま。 「眠りながらにも予知してくれてたんですかね。俺が来る事を」  ベットの前に立ち尽くして、寂しげにつぶやく歩は澪菜を見下ろす。 「きっとそうね。だってこの子は寝ているだけなんだから」  それは雫の願いであった。  彼女もまた、この現実を受け入れられてはいないまま。  未来は、澪菜から感情と言葉を奪ったのだ。  先にある過酷な運命が。 「灯りをつけましようか?」  雫は部屋から出かけにそう言ったが、歩は首を横にふった。    月明かりでそう暗くはない部屋には、静寂しかない。  そんな寂しさをうめるために、歩はそっと澪菜の手を握った。  声、笑顔、仕草。何でもいいから、ここにいる自分に応えて欲しいと歩は思っていた。 「温かい……」
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