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「そっちは駄目だよ」
去年の夏の時期。街の神社で催された夏祭りに2人は訪れていた。
紺色の生地にひまわり柄が咲く浴衣を来た澪菜と、彼女をエスコートする歩。
うなじを隠すセミロングの襟足付近を軽く触れる歩に対し、くすぐったそうに笑い返す澪菜。
2人の何気ない過去の一面だ。
「くじ引きでもやるか。景品を根こそぎ奪ってやる」
そういって出店の前に立つ2人の前には、紐の先にくくりつけてある景品の数々。
何本もの紐が筒の中に隠され一点で重なり合う。
その点から先は、無造作に紐の流れて幾重もの道に続いている。
手にした紐がどの景品に繋がっているか分からないので、狙ったものを選べない仕組みだ。
「まさか、こっちの紐があのかき氷機だっていうのか?」
「根拠はないけどな。俺の勘だから」
澪菜の欲しがった景品を引き当てようと意気込む歩であったが、たくさんの紐の中から目当ての物を引き当てる自身などなかった。
正解が分からない選択を迫られた時に、人はどのような態度を取るのか。それは様々である。
歩の場合は臆することなく強気を貫くようだ。
「運命の選択だね」
「悩んでる時間もあまりないからな」
後ろの小学生が順番待ちにシビレを切らしていたので、歩は紐を力任せに引っ張ってみせた。
「あ、そんなに引っ張ったら駄目だよ!?」
その言葉は既に遅く、奥の台に置かれた氷機の箱は転げ落ちて地面に叩き付けられる結果となってしまう。
箱の中身は惨事に包まれていた。
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