序章

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 その刹那。地に轟いた雷鳴は、山々から土砂をなだれさせ、氾濫した川が津波のように木々をなぎ倒しながら押し寄せる。  そして世界は雷で白い光に包まれ、水と土砂で草原を呑み込んで行く。 《時の楔》と《理人》が再び相容れる日まで、決して巡り合う事のない、太陽と月の逢瀬を見送り、千と九百の年を数えた──。 「信じられないな、そんな昔話」  彼は両手を後頭部辺りに組み、椅子の背もたれに寄り掛かりながら座っていた。 「私、最近夢で良く見るんだ。ほら、私の家ってみんな、占い得意じゃない? だからその力で、皆と一緒に戦ったって。おばあちゃんから聞いた事あったから」  真上に輝く太陽が暖かい風を生み、生まれたばかりの温もりが、2人が居る白い部屋に木々の香りと共に遊びにくる。 「だから、そんなおとぎ話を俺は信じない」  まだ足跡がないパウダースノーの高原の、その一角を切り取り壁紙にしたような純白の壁に、四方から囲まれた部屋で聞かされるお話。  彼女の言う事に、一切耳を傾けない彼は、木目調の机の上に広げられた、古ぼけた一枚の紙に視線を落とす。  その紙の周りには、四方から囲む様に、何かの虫の粉末、妙な匂いがするろうそくの火。そして、紐に吊された水晶がある。 「私たちの未来でも、占って見ようかな」  そんな事を言って、黄色のパーカーの右袖を二の腕まで捲り、これみよがしにやる気を見せる。  どうせ見えやしないと、彼はやめておけと止めようするが、話を聞かずに何やらぶつぶつと唱え始める。  降霊術でも始めたのかなと訝しる表情。  黒髪に光が入ると少し青色を含んで見える。そんなショートカットの前髪の隙間から覗く、灰色の瞳をゆっくりと閉じるのだった。
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