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「しゃしゃり出てくるなよ。正義の味方気取りか?」
眼鏡をかけた一見真面目そうだが、学校の風紀にそぐわない茶髪の学生が、あざける眼を下に向けている。
壁にもたれるように身体を崩れさせている少年──歩は、切れてしまった口から血を流し、朦朧とした意識をふり払うために、頭を左右にふった。
「お前がやってんのはイジメだ。それを許すわけにはいかねぇんだよ。……あいつに謝れ」
そう言い終えるや否や、眼鏡の学生の横から出てきたもう1人の学生が、歩の腹にトゥキックを見舞う。
その一撃が最後だった。
「気を失ったか。まだ聞こえるなら覚えておけ。この世は生き残れる奴が最初から決まってんだ」
歩の周りを囲んでいた数人の学生たちは、体育館裏を去ろうと背中を向けた。
「俺が生まれつき完全無欠なのは、そういう事なんだよ」
去りぎわの台詞は、いつまでも胸の中にこだましていた。
弱い者は生き残れない。
生きてはいけない。
いつから、このような世の中なったのだろうか。
いや、それは人として生きる者の宿命なのかも知れない──
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