第1章 ながい眠り

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 夕焼けが一筋の道を照らす。  買い物客や帰宅途中の人々であふれ始めた夕方5時の商店街。  2つの影が人波を縫うように走っているのが見える。  黒の学生服を着たの純朴そうな少年2人で、何やら慌てた様子である。  むせ返る泣き顔の表情からは、怒りでもない、本気の悲しみでもない。  何故、自分達がこんな目にあっているのかという、不可解さが見て取れる。 「すみません、どいて下さい!」  人波をかきわけながら突っ切る目先には、仕事帰りのサラリーマンの肩や買い物カゴ片手の主婦の姿。  一心不乱に疾走する彼らは、ぶつかった後の事は考えていない様だ。  そんな矢先、八百屋の前で少年と主婦が交錯しそうになった。  謝罪の際に少年が俯いた。その拍子に溢れた涙に気が付いた主婦はどうしたのかと辺りを見回わす。  すると向こうからブレザー学生服の2人組がやってくるのが見えた。  モップのような金髪をバサバサさせる男と、ハリネズミの様な黒髪ツンツン頭の男。 「待ちやがれ!」  先程ぶつかりそうになった少年を追っているのだ。  モップ頭とハリネズミ頭の2人組は、細身の学ラン少年2人とは対照的でガッチリとした体つき。  運動が得意、ケンカが強い。そんな事を無言で主張している。  彼らから逃げるのは至難の業だろう。  モップ頭が武骨な手で、少年を捕まえ様とするが、身体を屈められ寸ででかわされる。  少年も簡単には諦めない。  学生服の少年は足がもつれ、手前にふらつきながらも、脱兎の如く。  モップ頭は、金髪をライオンのたてがみの様に揺らし、叫び声をあげながら追い始める。  野性世界の弱肉強食を見ているようだと思った主婦は事を察し、少年の無事を祈るばかり。  立ち止まらずに先を駆けていたもう1人の少年は、人混みの中に紛れながら住宅街へ。  泣きべその少年は、ガードレールに突き当たり、そこから急カーブして、逆の河原方面へと走って行く。  追い続けるモップ頭とツンツン頭は、分担してそれを追う様だ。  4匹が通りすぎた後の商店街は、あわただしさが消えていく。
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