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「なんとまあ、こりゃご立派な……」
魔王討伐隊たる俺、クロン・アクリル以下4名は、長い旅の末にようやく【魔王】テレア・ティセットの居城まで到達したのだが、不思議な事がある。
眼前にそびえ立つのは魔王城。仮にも人類の怨敵、【魔王】の根城であるにも関わらず、ここには何というか、こう、不気味さがないのだ。
広大な敷地をグルリと囲む白い外壁に、華美な装飾の施された見上げるほど巨大な門。柵の隙間から庭を覗くと、手入れの行き届いた緑の芝生と、青く澄んだ川のコントラストが目に眩しい。
ぶっちゃけ、故郷にある年季が入った王城よりもずっと清潔感に溢れる。
「マジで魔王の城だよな……?」
疑心暗鬼にもなる。これが魔王城なんて信じられるか?
一般的に魔王城をイメージは、崖の上に建っていて、昼も夜も関係なく辺りは闇に包まれていて、城の中も外もコウモリの大群が飛び交っていたり――っと、そんなものだろう? なんだこの綺麗な城は。
「なに言ってるんですか、クロン君。そこを見てください、ちゃんと案内板も立っていますよ」
「……案内板?」
「ほらそこ。門の端っこの方です」
そう言って、独り言に返事をくれた少女は、俺の幼馴染みアクア・シェナーだ。腰まで伸びた青髪に、人畜無害そうな藍色の眼。踵近くまである立派な青マントを着込んでいるが、童顔なコイツには似合っちゃいない。
そんなアクアの肩書きは【藍の勇者】
世界を魔界と人間界に分けたとされる伝説の初代【黒の勇者】以来、4000年振り、人類史上2人目となる【勇者】の称号を得た傑物。あんな見た目のくせして、剣技、武術、魔術、その他諸々において超一流の才覚を現した人間界最強の存在ってんだから、とんでもない詐欺だ。
「……お前って何なんだろね」
「や、急にどうしたんですか?」
「気にしないでくれ。神は一体何を思って、お前という存在を生み出したんだろうなーって考えてただけだ」
「なんで私は唐突に自身の存在意義に疑問を抱かれたんでしょうか……」
文句言いたげなアクアをスルーしつつ、先ほどコイツが指差した方向に目を向ける。巨大な門に目がいっていて気付かなかったが、門のすぐ横には人間サイズの扉が設けられており、案内板はその扉の前に立てられていた。
案内板には、達筆な魔族文字で
【テレア・ティセット城。敵・味方は問いません、誰でも大歓迎! 魔王討伐隊の方はこちらの扉からどうぞ】
と書かれている。
「…………(罠だろ)」
「クロン君? なにぼーっとしてるんです?」
「なにってそりゃ……。あーいいや、なんでもない」
「むっ、そんなことでは困りますね。あなたは私たちのリーダーなんですよ? 最後まで気を引き締めてもらわないと困ります!」
ふんふんと鼻鳴らして俺を叱咤するアクア。
あらゆる分野で俺の先を行く彼女だが、危機意識が低いというか、若干間が抜けているというか……。凄まじいスペックの割に、今ひとつ壁を感じさせないところがアクアがアクアたる所以なんだろう。
おかげで俺がこんなイロモノ集団のまとめ役なんて貧乏くじを引かされているワケだが。
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