本命

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とても深く、静かに西村は言った。 気付くと、プープーと電話が切れた音がしている。 西村がこれまで愛の言葉を囁いたことはない。 こちらが好きだと言っても、西村はただ笑っているだけだった。 それに西村は最初に言ったはずだ。 お互いに干渉はしない、と。 なんだか怖くなって、キッチンに向かい、冷蔵庫からビールを取り出して飲んだ。 気を紛らわしたい。 一本しかないビールをあっという間に飲み干すと、あたしは流しの下の棚を開けて、日本酒のビンを取り出した。 コップに注いで飲む。 お母さんにもらった、いちごのマグカップに並々注ぐ。 3杯目を注ごうとしたが、耳元でいおり、愛してるよ。聞こえた気がして、ビンに直接口を付けて飲んだ。 そこで記憶が飛んだ。
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