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「えーと、何から話そうか」
「必要な事だけ」
「あー…うん。そうだね。まず、この学園に連れ戻したのは義兄(ニイ)さんの命令。僕じゃないよ?
次期社長になるたぁーくんを一般高校などに入れてはおけない!
とかなんとか言っていたけど、実際は手に届く範囲に置きたいだけだと思うよ」
「…あんの糞親父…」
高校入学2ヶ月ちょっと…一番大事な時期に俺は転校を命じられた。
9割方無理やりだ。
2ヶ月ちょっとといえば…クラスの奴等とも身の内を少しずつわかり合い、名前を覚え、6月の中旬、夏も近づいて来て、夏の計画を話し合う…。
そんな一番楽しい時期に何さらすんじゃボケ――ッ!
俺の夏は?
俺の楽しい夏はどこに行ったんだ!?
普通の遊びだからこそ楽しい。
普通の遊びを普通の友達と普通に遊ぶ…、ふははははははは、なんて楽しい…。
カムバァーック俺の楽しい夏ぅー休みぃぃいっ!
…あ、涙出てきた。
幼、初、中等部とこの学園ですごして来た俺の日常は、それは悲惨だった。
毎日のように女子、男子構わず追いかけられる日々。泉家の血筋というだけでこれだ。
それゆえに初等部高学年の頃はほとんど授業に出てはいない。
俺は悪くない!
頭は抜群に良いので特に困りはしなかった。
こんな生活をすごして来たからなのか、俺は人一倍『普通』にこだわる。
だから高校は一般高校で普通の生活をしたかったのに…。
「はあぁ~~…」
盛大なため息を吐くと、叔父さんは目を丸くしている。
「叔父さん…今回は諦めるのが早いな、って顔してるね?どうせ、父さんの命令なら“絶対”なんだろ?
俺が反対したとしても、罰を受けるのは叔父さんだ。そんな事できないよ」
このくらいの想定、ここ何年間でしっかりと学習したさ…。
たぁ~くぅん、と抱きついてくる叔父さんを蹴飛ばして、通学カバンを開ける。
カバンの中から黒いモノとメガネを出す俺を叔父さんは“?”を浮かべて見ている。
そんな叔父さんに見せ付けるようにして一言。
「変装道具」
「え?は?…なんで?」
「当然、俺だとバレないよーに!…父さんの命令なら仕方ない、そう思うよ。でも、別に『泉竜平』で居ろとは言われてないモンね。また昔みたいに見せ物になるのは、御免だね。だから密かに学園生活を送るつもり」
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