所詮叶わないと知っていても

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流が雷門中に引き抜かれて行くと聞いた。 特に流に高い技術があるわけではないが、雷門中のキャプテンは「喜多海はその長身を活かせば、凄い選手になるぞ!」 と言って流を雷門中に誘った。 一サッカー選手として弱小中から、急成長している雷門に行くのは当然と思われた。 しかし、流は行くのを渋っていた。 答えを先延ばしにして5日が経った。 「喜多海君なんで行かないのよ!」 「流が居なくなってもこっちは平気だから、安心して行ってきなよ」 「強くなって戻って来てね」 皆が口々に言っても流は動かなかった。 言ってしまえば、俺は流が雷門に行って欲しかった。 流が居なくなれば恋敵が居なくなるというものだ。 こんなことはフェアじゃないし、最低だとは自覚しているが、礼文を独占したいという気持ちは止まることがない。 「流、行ってきなよ」 礼文が流に笑いかけた。 だけどその目は笑っていなかった。 今にも泣きそうな悲しげな笑みだった。 流はというと、少し驚いた様な顔をしていた。 それもそのはずだ。 礼文は今の今まで流に話し掛けず、ずっと一人で俯いていたのだから。 「礼文…」 流はそう呟いて礼文の頭を撫でた。 礼文は嬉しそうに目を細め、自分より背の高い流を見つめていた。 二人からは甘い雰囲気か漂っていた。 俺はこれ以上見ていられなくなり、かけ出した。 見渡すは一面の銀世界。 「さむ…」 上着を着てくるのを忘れた。 白い息を吐き、空を見上げると空はオレンジに染まっており、礼文の名字は空野だったなぁとか色々と考えた。 翌日、遂に流が雷門中に行くことを聞き流の送別会が開かれることになった。 並ぶご馳走と色とりどりのフルーツやお菓子。 皆が目を輝かせてパーティーを楽しんでいたが、俺はとてもそんな気分にはなれなかった。 流と一番仲良かった礼文が流の隣に座り、俺は礼文に近づけなかった。 溜息が自然に口をつき、俺はこんな気分を払拭しようとチキンにかぶりついた。 「ちょっとトイレ」 だが、そんなことをしても気分が晴れることはなく、俺は気分を晴らそうと席を立ち、外に出た。 しばらくすると、ザクザクと雪を踏む音が聞こえてきた。 期待しても礼文ではないだろうと思って俺は振り返らなかった。 「烈斗」 背後から聞き慣れた声が俺の名前を呼んだ。 俺は胸の高鳴りを押さえられず、振り返った。
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