序章

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世界の崩壊が始まったのはいつだったか。いや、そんな変動の前に私は生まれていただろうか。 それすら覚えは無い。 私は目の前の猛獣を睨むこともなく、ただじっと遠くを見るように見つめ心は別の事を感じ、考えていた。 猛獣――茉莉を激しく威嚇する充血した目は自我を失った瞳の奥底で別の黄金の眼(まなこ)が彼女を襲う機会を逃さぬように閃かしていた。 ただただ、 沈黙の空気が駆け抜ける。 彼女の一瞬の隙が見えた獣は、刹那この世にありえぬほどのスピードで彼女に接近していく―― と、同時に獣の鋭い牙と私が携帯していた短刀の刃が交えた金属音が鳴り響いた。 赤々とした液体が体に付着し、白い背景に赤の絵の具を塗りたくったように見える服を、見下ろし、再び獣に視線を変えた。 先程まで猛獣だった奴は冷たいコンクリートの上で紅色のマントを体全体に巻き付け、冷えきった空気の中に横たわっていた。 私は死を確認すると暗い空の中輝く星を見上げる。そして背後に殺気を感じると、直ぐ様刀を構えて切り掛かった。
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