隻腕の猿

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 彼の指差す先には、一匹の隻腕の猿が(うずくま)っていた。  地面に打ちつけられた(くい)に、丈夫そうな太い縄で首根っこを(くく)り付けられている。   目ばかりがギラギラと赤く光る、()せこけた猿。  俺の手元に()えられた視線は、背筋を凍らせるほど鋭く暗い。 ──ソレハオレノモノダ──  頭の中で声が響く。  金属的な高い耳障りな声だ。 ─ナゼ、オマエガモッテイル──  猿と目があった。  血走った薄茶の瞳は、人間の瞳よりも深い知性を宿しているように見えた。  頭に響く声は、この猿のモノなのか? ──オマエノバンダ──  俺を見て、笑った。  恐ろしさに思わず俺は身震いした。  次の瞬間、猿は思いもかけない俊敏さで首に縄を着けた侭、飛びあがった。  杭は地面から簡単に抜けた。  すぐに抜けるよう、細工してあったのだ。  奴は俺から「猿の左手」をひったくると、高い叫び声と共に逃げ去った。  
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