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白い息を吐きながら、ゆっくりと砂浜に腰をおろした。
季節は冬…
海なんか見に来る季節ではない。
しかし僕はここに来なくてはならなかった。
白と言うより銀色に近い海面に珍しく差した太陽が反射して光の床のようにも見える。
浜風は肌に突き刺さるとも言えるくらい強く吹き付けていた。
「もう三年になるよ…」
誰に伝えるわけでもない言葉が自然に口からこぼれた。
指先の感覚が無くなる位に寒い。
波の音に耳を澄まし目を閉じた。
音だけの世界に浸っていると不思議と寒さも薄れてくる。
「お前を失ってもう三年。今もまだ……好きだ」
僕は返って来るはずのない言葉を投げ掛けた。
波が哀しく打ち付ける。まるで激しく泣いているようにすら見えた。
僕にはそれが嬉しかった。返事なんか来るはずがない。
真冬の海で二時間以上立ち尽くしている。
三年前から毎年一月三十日、この日は必ずここに来るのが僕の中で決まり事になっていた。
この一月三十日という日は何かと僕にとって特別な日だ。
大好きな彼女と付き合いを開始した記念日であり、大好きな彼女を失った日でもあった。
「三年も経つのに、未だに自分を許せないよ。後悔も消えないよ」
僕は震えながら呟く、寒くて震えてるわけではない。悔しくて、自分への怒りで震えているのだ。
僕は毎年ここに来て必ず行う事がある。
僕は凍えた指でズボンのポケットから一枚の紙を取り出した。ゆっくりと静かに立ち上がる。
「美冬、俺達付き合ってもう七年も経ちます。早いようであっという間のようで、これからもずっと美冬だけを愛し続けます。やっぱ冬って俺達の季節だよね。付き合い始めたのも冬だしさ。これからも変わらず俺を見ていて下さい。美冬には三年前から逢えなくなったけど、俺は今でも美冬だけを愛しています。また来年のこの日に来ます、愛する美冬へ、雪仁より愛を込めて……」
毎年二人の記念日に彼女にラブレターを書いてここで読んでいる。
読み終えたらそれをクシャクシャに丸めて白銀の海に向かって思い切り投げる。
ラブレターは海にすぐに呑み込まれて見えなくなる。
きっと彼女に、美冬に届いているだろう。
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