夜の微睡みの中で

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「畜生っ、畜生っ」 男は蟾蜍のような声で、現状が信じられないのか悔しいように言葉を吐き捨てる。 顔には脂汗が浮かび、必死に脂肪で膨らんだ両足を動かして路地を逃げ惑う。這いずるように、何度も後ろを確認しながら男は路地を駆けていく。 「畜生、痛え、あの女、絶対に、殺してやる、畜生、糞、俺を、舐めんじゃねぇ」 荒い呼吸と共に悪態を付く男。 その右手は青く膨れ上がり痛々しい。 折れ曲がった指はリハビリ無しではもう動かないだろう。爪が剥げ落ちていた。 ネオン街の喧騒から逃れるように男はいくつもの曲がり角を迷走し、なにかを探す。 追跡者から逃れるために、今の状況を打開するために男にはあるものが必要だった。 それは、こういった裏路地にはありふれた平凡な物体は、風俗店の裏にあった。男は飲食店の裏を曲がった時にそれを見つけた。 風俗店の裏でやや乱雑に並んだ、三つの特徴が無い箱状のゴミ箱を。蓋が、内部に限界まで詰まった残飯などのゴミで少し浮き上がっていた。
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