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1540年
アイルランド───コノート。
"レイン平原の砦にて語られる最期のやり取りと、そこから派生する新たなる邂逅の序章"
「これまで・・・ですね」
トァン・マッカラルは、彼方から聞こえる馬の駆音をいち早く感知していた。
トァン・マッカラルは、いわば"神話"を見た男である。
トァンは次々と色々な動物に生まれ変わりながら何百年も生き、アイルランドで起こった様々な神話や種族の盛衰の有り様を見て、後の世に語ったと言う逸話の持ち主である。
「イングランド軍っ。遂に砦を嗅ぎ付けたか・・・」
老いたトァンの身体を気遣いながら、彼方を睨み付ける女。
美しく膝まで届きそうな金髪を双束に分け、その双束を両腕に巻き付けた女戦士アイオナは、その大軍の音に怯む事無く、例え死に直面しようとも憎きイングランド軍を討ち滅ぼすつもりでいた。
「―――アイオナ。死を恐れず、死後も魂は滅びません。 その信念は揺るぎませんね?」
覚悟を決めるアイオナを見て、トァンは静かに語りかける。
トァンは現在人間の姿を象っている。
しかし、その姿は老体であり虚弱。
今にも死期が迫っていると言った風貌だ。
トァンは伝承では既にこの世を去っている。
しかし、トァンは死を思い止まった。
その理由は、この地に未だ根を張り続ける"神"が居たからだ。
「はい。この十字剣フラガラッハに誓って!」
アイオナは美しい十字剣を立て、トァンの言葉に応える。
「なら、"彼女"を連れ遥か東へ向かいなさい」
「っ!この地を捨てろとおっしゃるのですか!」
トァンの意外な言葉にアイオナは面食らい、そして怒りを露にした。
「既に戦で荒れ果てたアイルランドの地に、"彼女"はもう心労しきっている・・・。黒死病、飢饉───それに加えイングランドに"彼女"が捕まれば、この国は確実に枯れてしまいます」
草原に横たわる"彼女"を慈しむ様に見つめるトァン。
「くっ」
ギリ、と唇を噛み締めるアイオナ。
「アイオナ、マナの船を借りなさい。十字剣を持つ貴女なら、あの方も協力してくれるでしょう」
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