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「しかしトァン様、貴方は・・・」
「わたしは既に生き過ぎた。伝承通り、わたしは世を去るべきだったのでしょう」
「東方で、どうやって生きろと言うのですか」
アイオナや、トァンにとっても東方は未知の大陸だ。
「"彼女"が降り立つ地に住みなさい。そして、"彼女"を支え、人を導きなさい」
「私に"神"を支える力など・・・」
ぐったりと翼を垂らした鷺を見つめ、アイオナは自信を喪失する。
「"彼女"は国そのもの。いずれはこの地に還って来ます」
「・・・」
「"彼女"の力は───時に人を救い、人を災いに導くものかもしれません。
慣れぬ地では、"彼女"の力が不安定になる可能性もあります。その時はアイオナ・・・貴女が力になってあげなさい」
「───わかりました」
アイオナは唇を噛み締めて頷く。
大軍の馬音が聞こえて来る。
「さぁ、常若の国(メグ・メル)へ向かいなさい」
「トァン様・・・。
貴方と出会えた事で、私は自らの役目を果たせそうです。東方で、そして彼方で、貴方の後世を伝えて行きます」
「・・・東方。あちらの"神"とも出会ってみたかったですね」
トァンは空を見上げ、異国の地に思いを馳せる。
「我が国は永遠に在り続け、神の後ろ盾無くとも、この国は勝利を勝ち取る!!
さらば!」
アイオナはトァンに涙ながらに一礼し、鷺を連れて常若の国へと逃れた。
「イングランド、野望は費えましたよ。
我が国の神は亡命し、我が国が自由を手にした時、地に還り、繁栄する。
アイルランドよ、永遠に―――」
「いたぞーー!!!!」
「神を匿う異端者め!!!!」
イングランド軍がトァンをひっとらえ、そして詰り、縛り上げる。
「死して、墜ちろ!!!!」
目を瞑り、死を受け入れるトァン・マッカラルに容赦無い断罪が下される。
「死を恐れず、死後も魂は滅びぬ────」
―――(ブシュッッ───)
血が迸る。
トァンは一切の恐怖を感じる事無く、死を受け入れた。
トァンの見てきた"神話"は、現代人でも容易に知る事が出来る。
それは、ケルトの人々が伝え残した神話の数々なのだ。
目に見えぬ世界〈常若の国〉や、目に見えぬ種族・妖精たちの存在を信じていたケルトの人々の思いが、今に甦る。
────。
この物語は神話となる。
トァンの介せぬ神話へ────。
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