59人が本棚に入れています
本棚に追加
■序章 無限色"イリス"
◆傍白(時田霧都による)◆
―――初めて眼に焼き付けた色は、赤だった。
どんな美しい風景を見ようが、七色の虹を見ようが、"この町"の咲き誇る花々を見ようが、最初に眼が直視するのは必ず───赤。
赤こそが力の源。
赤こそが存在意義。
飛び散った赤が、私の眼にへばり付いて離れない。
瞬きする事も出来ず、その赤を顔一杯に浴びせられた。
掠れた声が出て、ただ絶望に抱かれ、その瞬間に全てを悟った。
その悟りを、毎日、毎日、毎日、毎日、繰り返した。
全てを思い出せる。
いつでも思い出せる。
そして、それをいつ思い出すか知っている。
9歳だった自分。
母はいつも、いつも、いつも、側にいた。
片時も離れなかった。
離れなかった記憶と、離れた記憶。
その一瞬が切り替わる。
映像が切り替わった時、視界は赤く塗れ、母は首が無い状態で私を抱いていた。
母の血は、世間一般的に言う基本色の赤とは違った。
どす黒い。
宝石の瑪瑙(めのう)の様な、深い赤茶色。
私にとっての赤の基本色は、瑪瑙色。
英語でアガットと言われる由緒ある宝石を、私は血の色に例えた。
そして、本能的に母を殺した"相手"を見た。
瑪瑙色に染まった眼で、相手の顔を眼に焼き付けた。
私は確かにその時、相手の顔と、"色"を見た。
眼は、"それ"を記憶した。
私はその瞬間、何故か優越感を感じた。
10年かかっても掴めないものを、一瞬で掴んだ様な感覚。
私は母の死と引き換えに、復讐と言う憎悪を手にしたのだ───。
最初のコメントを投稿しよう!