■序章 無限色"イリス"

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■序章 無限色"イリス"

◆傍白(時田霧都による)◆ ―――初めて眼に焼き付けた色は、赤だった。 どんな美しい風景を見ようが、七色の虹を見ようが、"この町"の咲き誇る花々を見ようが、最初に眼が直視するのは必ず───赤。 赤こそが力の源。 赤こそが存在意義。 飛び散った赤が、私の眼にへばり付いて離れない。 瞬きする事も出来ず、その赤を顔一杯に浴びせられた。 掠れた声が出て、ただ絶望に抱かれ、その瞬間に全てを悟った。 その悟りを、毎日、毎日、毎日、毎日、繰り返した。 全てを思い出せる。 いつでも思い出せる。 そして、それをいつ思い出すか知っている。 9歳だった自分。 母はいつも、いつも、いつも、側にいた。 片時も離れなかった。 離れなかった記憶と、離れた記憶。 その一瞬が切り替わる。 映像が切り替わった時、視界は赤く塗れ、母は首が無い状態で私を抱いていた。 母の血は、世間一般的に言う基本色の赤とは違った。 どす黒い。 宝石の瑪瑙(めのう)の様な、深い赤茶色。 私にとっての赤の基本色は、瑪瑙色。 英語でアガットと言われる由緒ある宝石を、私は血の色に例えた。 そして、本能的に母を殺した"相手"を見た。 瑪瑙色に染まった眼で、相手の顔を眼に焼き付けた。 私は確かにその時、相手の顔と、"色"を見た。 眼は、"それ"を記憶した。 私はその瞬間、何故か優越感を感じた。 10年かかっても掴めないものを、一瞬で掴んだ様な感覚。 私は母の死と引き換えに、復讐と言う憎悪を手にしたのだ───。
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