劣等生

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「炎の精霊さん、ちょっと力を貸してくれ」  訓練場が、ザワ、となった。 ――呪文が違う。  しかしロウソクには炎が揺らめいている。 「……自動契約だ」 誰かの声がした。  訓練場にいるのは、皆同じ時期に入学した者ばかりだ。  自動契約の実習授業は、まだ始まっていない。  ということは、独学で会得したということになる。  ルーウェンは、呪文契約すら一度も成功したことがないというのに。  やがてルーウェンの名前が呼ばれた。  ルーウェンは、緊張した面持ちでロッドを自身の正面に立てた。  ロッドを強く握り、精霊へ声が届くようにと、念じながら呪文を唱えた。  ルーウェンのロッドの先についた鈴が、リ、と小さく音を立てた。  そして……ロウソクには何の変化も起こらなかった。 「これは本試験じゃないから、気を落とさないで」 と、教官が声をかけた。  しかしそれは気休めにすらならず、ルーウェンは肩を落としてロウソクの前から退いた。
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