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てっきり同い年くらいだと思っていたけど、実は3つ下だということに驚いて。
今まで出会った事のない人格の男の子で、最初はとても困惑もしたし、そのマイペースさに仕事が遅れてしまうこともあった。
でもそのうち、彼は返事に応えてくれるようになって、向こうから声を掛けてくれるようにもなって――。
『どうでもいいけど』
その言葉をいつから言わなくなったのか、それはなぜなのか気になった。
無駄に目を見るというか、彼にじぃっと見られる度に、心臓が締め付けられるようでまた困惑して。
それでも、謎でもマイペースでも自由でも、そんな彼といて自然に笑っている自分がいた。
次第にそこが、居心地のいい空間だという事に気づかされて、“人”としてこの人が好きだと思うようになっていた。
そして、そんな時。
『ここってどんな場所……』
『いってらっしゃいもおかえりも、ただいまも言わない理由』
『なんでここの人間と、距離を置くの……』
私しか知らない感情や、それに伴う行動を見抜かれた瞬間。
高校を卒業したばかり、ということもあってか、大人になってより一層見つめられるようになった、過去や現状。
たくさんの気持ちを抱いていた私が、それを人に打ち明けようと思えたきっかけをくれた人。
そんな祐介くんに私は“好き”だと言われた。
あの夜、自分の気持ちに初めて気付いたかのような祐介くんと同様、私もその時、既に彼を特別だと想う自分がいたのかもしれない。
「涙を人に見せたことは無かったし、見せられる人もいなかったのに……あこちゃんの前で泣けたのは、祐介くんがきっかけの言葉をくれたからなんだよ……」
そんな祐介くんを好きだと想えたこと。
大人になって“理由”を付けなきゃ恋も出来ない私からすれば、それは立派な理由。
「きっかけじゃなくてさ……俺は、それを見せられる人間にはならない?」
「祐介くんに?」
「その人の前では雨が無くても泣いたのに、俺は雨の降る中でしか幸子の涙を見てないから……」
「そんな、泣けるわけ、」
「泣いていいのに」
っ……。
真っ直ぐ向けられる瞳に、動揺を隠す以前の問題の私は、膝の上に置いた両手を握り締める。
次第に肩で息をし始めると、次に発せられる祐介くんの言葉に、どうにか保っていた冷静な感情がプツリと切れてしまう。
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