episode03

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――ガチャ 扉の音に私は、遠ざかりかけていた意識を呼び起こす。 「あ……おかえりなさい。食事出来る時間1時間しか無かったけど、ちゃんと完食できましたか?」 「……幸子がいる」 「…ハハ」 貴方が待ってろって言ったんですよ。 「あ、思い出した」 「それは良かったです」 祐介くんが腰を下ろすと沈むベッド。 床に座っている私を見下ろしてきながら、祐介くんは静かに口を開く。 「そろそろ付き合ってくれてもいいんじゃないですかね」 「……は」 はい?と、声を裏返しながら祐介くんを見上げる。 「だって幸子、俺のこと好きでしょ?」 その平然とした態度を習得したい。 猫背でやる気のないその風貌に、私はある意味尊敬の眼差しを向ける。 「たけしくんがそう言ったの?」 この流れで告白する? 落ち着こう、準備も何もしてないもの。 そもそも……なんでたけしくんにバレてるんだろ。 必死に言葉をまとめようと、頭の中に幾つもの単語を並べていく。 「今日、確信した」 「その自信はどこから来るんですか……」 さぁ……、と手遊びを始めてしまう祐介くん。 どこまで冷静なの。 幸子、相手は余裕だ、焦りを悟られてはいけない。 「なに……睨まないでよ」 「に、睨んでません……」 あぁ、駄目だ。 いつもの如く、ペースを持っていかれる。 ……私のペースってどんなだったっけ。 元はといえば、私はこんなにテンパったり動揺したりする人間じゃない。 そう、全てはあの日、バス停のベンチで祐介くんに出会った瞬間から私のペースは乱され始めたんだ。 『佐千祐介くんだ。皆、仲良くしてくれな』 『……どーも』 黒沢さんに紹介された男の子は、バス停で“眠い”と呟いていた人物だった。 新しい寮生だと知らされた後、祐介くんの自己紹介を聞いた時、私は苦笑いを浮かべたのを覚えてる。
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