episode03

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「泣けって言われても我慢してる理由が、俺には分からない」 ――ハッ 「そう……やって、簡単に言うけど……」 「……」 「っ泣けって言われて泣けるものじゃないよ」 「……そう? 十分泣きそうな顔してた」 「それは」 「隠すの下手すぎ。今までよく気付かれなかったね」 「っ……」 ある意味とても純粋で、とても素直な人。 話をするうえで重要な主旨を言わないくせして、感じた事や思った事はそのまま口に出す人。 だからそれが例えトゲのある言葉だったとしても、涼しい顔をして言ってのけちゃう祐介くん。 けど、それでも祐介くんを嫌いにならないのは…… 惚れた弱味、なんだろうか。 そう思うと悔しくて悔しくて、声が震えていることに私はやっと気付く。 「ひ、人の前で我慢しちゃうのは癖なの」 「癖……。そうなの?」 祐介くんに嘘や誤魔化しは通用しない。 今まで身を持って知り得たことだ、それは分かってる。 でも今はその、見破る技を出さないでほしい。 「どうして祐介くんは分かっちゃうの……。なんで、なんでそんなに見てるの?」 祐介くんの瞳に長いこと見つめられていると、いつの間にか顔を俯かせてしまっている自分がいる。 自分の爪が股に食い込んでいるのが視界に映っていて、祐介くんの視線も感じる。 「また我慢してる。それも癖?」 「……」 「幸子だから見る。知りたいと想うから見るし、分かるんだ」 その言葉にハッとする。 好きだから見る? 知りたいから……。 思い出した。 祐介くんが思ってることを、いつの間にか読み取れるようになっていた自分のことを。 私は静かに口を開く。 「雨が降ってるから泣け?」 けれど、感情が表に出てきて次第に強まる口調。 「そうだよ、頑張って無理をして、涙を我慢してる。雨が降れば涙は流せるけど、人の前に立った時はそれ以上に涙が出そうになるっ。だからまた、雨の日には溜め込んだものを吐き出すように泣いてっ――」 「でも、俺の前、」 「一番涙を見せたくない人は、あの2人なのっ」 かっこ悪くて虚しくて。 「心配かけちゃうんじゃないかって思うんだよっ」
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