episode03

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「幸子……」 ベッドから離れると床に膝を着ける祐介くんは、床を相手に想いをぶつけ始めた私を間近くで見つめてくる。 「雨が降れば隠してくれるけど、今日はっ……さっきは2人の前だったし、そんなの泣けるわけないじゃない」 「うん……」 「クッ、なの、なのに“泣きなよ”なんて言わ、言わな……」 「幸子、ごめん」 祐介くんが手を差し伸べてくる。 どのみち今、すごくかっこ悪いよ。 結局……泣いてるじゃない。 「生きて……」 私が小さく呟くと、私に触れようとしていた手が止まる。 いつにもなく見開かれた、祐介くんの瞳が見える。 「……え」 「祐介くん、言ったでしょう」 『これから幸子が名前を好きになれるように、僕は人肌脱ぐよ』 これはあの日、私が返せなかった言葉。 「名前なんて、とっくに好きになってる」 「……じゃあ、人肌脱がなくていいの?」 「いい」 「……」 表情を隠すように私が額に手の甲を押し当てると、顔に影が落ちる。 「何もしてくれなくていいから、いてくれるだけで、いいから」 返事を返せなかったのは、彼をどう想っているのか、確実な答えにまだ気付けていなかったから。 だけど、それ以上に大きな理由があったの。 「私は好きな人が出来ても、積極的に頑張れる人間じゃなかった」 「……」 「付き合うとか、そうなりたいとも思わなくて……執着もしなかった。でもそれは……言い訳だったのかもしれません。本気になって、その人を失うのが怖かったのかもしれません」 「俺に……いてほしいって、想った?」 祐介くんはそう言いながら、私の手を額から退ける。 私は、目線を下げたまま頷く。 瞬きをしない目からは、丸い透明の粒が落ちた。 ――ポタッ、ポタタ 私が抱いた自分への想い。 それを初めて知った祐介くんに、顔を背けられてしまう。 彼の表情を伺うと、ほんの少しだけ、少しだけ赤く染まった顔。 あ……。 「……」 「……ズッ」 暫く続いた沈黙。 ふいに、私の視界に大きな手が現れた。 ゆっくりと顔をあげれば、すぐ近くに祐介くんの顔がある。image=347121980.jpg
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