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時期は四月。桜の花びらが舞う道を、僕、椿結城は歩いていた。
「あーぁ、疲れたー。全く、入学式なんてもっと短くて良いのに。なあ結城」
横からの声に振り向くと、隣では親友であり幼なじみの新谷瞬が、だるそうな顔でカバンを振り回していた。
ちょ、危ない。
振り回されるカバンを避けつつ、いかにも疲れたオーラを出している瞬に応える。
「仕方ないよ。校長先生の数少ない発言の場なんだから」
「それもそうか。ハハッ」
瞬が笑うと同時に、暖かい風と共に桜が舞って行った。今日も穏やかな日で良かったよ。
にしても、本当に桜とかが似合うなこのイケメンさんは。
スラッとした体つき、キリッとした目、それでいて柔和な顔と身のこなし。
振り返れば、十人中七人ぐらいは振り向き返してくれそうだ。
全く、平凡な自分が悲しくなってくるよ……
まぁ、それは置いといて。
こんな他愛もない話で盛り上がっている僕たちは、お察しの通り高校の入学式の帰りだ。
僕が行き始めた高校は、全校生徒数六百人という大きいのか小さいのかよくわからない東明高校という高校である。
そうこうしている内に、僕と瞬が別れる曲がり角まで来た。
瞬の家は僕の家から五分ほどの場所だ。そのため、幼なじみと言っても少し離れている。
「ん、もうこんな場所か。それじゃあ結城、また明日から頑張ろうぜ」
「うん。また明日ね」
曲がり角で振られた手を振り返す。いつもと変わらない、はずだった。
そして僕たちは別れる。もちろん僕は、この先に何があるかなんて知らずに……
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