幻想郷への入り口

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高校生になって二年目。 季節は夏。しかも今は夏休み。 現在時刻は夜の九時。場所は人里離れた暗い森の中。 そんな中を俺――柊 皐(ひいらぎ さつき)は、懐中電灯片手に友達と歩いていた。 一緒に歩いているのは三人。男一人と女の子二人。 なんでこんな所を友達と一緒に歩いているのか? 理由は簡単。 俺たちは肝試しをしているのだ。 なぜ肝試しなんかという幼稚な事をしているのか。それも簡単。 『夏だから』それだけ。 たったそれだけで、この肝試しは実行された。 まぁ。夏というのはそういうものだろう? 何もしていないのに妙にワクワクしたり、テンションが上がったりする。夏休みだとすれば尚更だ。 人は特別な『季節』や『時間』を貰えると、いつもより気分が高潮する。 それはいつもはない特別な『何か』を。言葉、又は文字として表すことで、そこに『ある』という感覚を起こさせる心理的錯覚がそうさせているのだ。 夏休みだって、本当は単なる長い休日というだけなのに。言葉や文字という具体的で現実的な『もの』にすることで、人は皆何かしらの『喜び』というものを感じる。 ……まぁ。要するに、人は夏休みになると浮かれて子供になるってことだ。 そして夏休みになって子供に戻った俺たちは。慣れてきた(というより飽きてきた)環境に新たな刺激を求めるため、肝試しを計画したのだ。 ネットなどで調べ、情報を集めた結果。決まったのがここ。 最も信憑性が高く。何かしらの『魅力』を秘めた。心霊スポット。 それがこの森の中にあると言われている。大きなお屋敷。 写真などはなぜか貼られていなかったが、多くの人々が足を踏み入れ、消えたと噂される呪われた館。 その噂はネットで瞬く間に広まり、ちょっとしたブームにもなった。 そしてさらに、いろんな噂が流れ始める。 ある人は神隠しの場所だと言った。 ある人は自殺スポットなのだと言った。 ある人は幽霊に喰われる呪われた館なのだと言った。 噂は噂を呼び。やがて、ある一点へと集結していった。 信じられる? いろんな噂があり、拡散した一つの夢物語とも言えるお話が、たった一点へと集まったのだ。 たった一つの単語へと、 『幻想郷』 後にその屋敷は、その入り口だと言われるようになった。
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