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雨が滝のように打ち付ける豪雨の中、一人の若い女性が毛布に包んだ赤ん坊を抱え、宛ても無く外をさ迷っていた。
女性に抱えられた赤ん坊は泣くことも、喚くこともせずに目を臥せたまま。
産まれて間もない赤ん坊の真っ白い肌は赤みを帯び、高熱にうなされていたのだ。
ぐったりとうなだれた子供を抱く女性以外に、周囲には人影が見当たらない。
その女性は何を思ったのか、一つの建物の前で立ち止まる。
そこは、この街で最も有名な動物病院。
入口に続く階段を上り、雨避けの屋根がある扉の前に、抱えていた赤ん坊を降ろした。
「―――ごめんな、さい。」
名残惜しむように、赤ん坊の頬に触れると、決心をしたように女性は立ち上がる。
その決心は、出来れば決めたく無い覚悟だったけれど、仕方ないと自分に言い聞かせるように。
「さよなら…ミケ。」
涙混じりに謝罪をすると、その赤ん坊に背を向け、豪雨の中に姿を消したその女性。
理由はどうあれ事実上、赤ん坊は棄てられたのだ。
犬や、猫などのペットを棄てるかの如く。
そして、"ミケ"と、猫の様な名前を付けられた赤ん坊は、母を求める泣き声もあげられぬまま肉親を失った。
酷く雨風の強い真夜中に――。
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