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「お母さんになんて説明しよう…。」
美都は小さい頃からの夢を叶えるチャンスを得たものの、女手一つで育ててくれた母へ罪悪感を感じていた。
“三ツ木橋~、三ツ木橋~お足元お気を付けてお降りください”
美都の通う学校の最寄り駅に電車が到着したようだ。
電車から降り、自動改札機を抜けて学校へと歩く。
一日授業を受けたものの、頭の中はこれからどうするかをずっと考えていた。
やがて学校も終わり、軽く友達と挨拶を交わして来た道を帰った。
――――……
家の前まで来ると、今日の夕飯を作っている匂いが辺りにやさしく漂っていた。
扉の前で目を閉じる。
――ちゃんとお母さんに話して分かってもらおう。
美都は扉を静かに開けた。
「おかえりー。」
いつもと変わらない明るい声。
「…ただいま。」
「どうしたの?」
いつもと様子の違う娘に母は問い掛けた。
「……話があるの。」
母は夕飯を作る手を止め、美都に向き合った。
「なに?」
「……この間、オーディションを受けたの。」
母は一気に表情を変えた。最初は驚いていたようだが今は美都を冷たい瞳で見据えている。
「……それで?」
「受かったよ。1年間東京の養成所で勉強してからデビュー出来る事になったの!私、夢が叶うんだよ!」
「…………そう。良かったわね。」
感情のこもらない声で母は言った。
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