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「まさか」
苦笑いを浮かべるマテラ。
「国境は遥か彼方、こんな辺境の村になんて」
「そうだと良いけどねえ。何だか最近は精霊たちが大人し過ぎる気がしてね。こんな時勢じゃ、何が起こるか――」
何時もと変わらぬように見える日常の最中で、老婆は抑えようの無い不安を露わにした。総じて長い時を生きた者は、そうでない者には認識出来ない何かを感じとるものである。
それを勘だとか、気のせいであるとかと形容することは容易い。しかし、かつて魔女と呼ばれたこの老婆が口にした小さな変化は、後に確かに具現化されるのだ。
例え、誰にも望まれぬとしても。
森深くの小さな村、星々の冠するその場所で、もう何度あるか分からない静寂の夜は更けていく――。
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