第六夜

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ようやく踊り場へと緩やかに下ろされる。そんなに離れていたはずじゃないのに、少しだけ久し振りの地面に安堵を覚えた。自分の足で立てるのって、やっぱり素敵。それこそ産まれたての鹿の赤ちゃんみたいに少し震えた両足で地面に立った。 「怖かったんだね」 よしよし、頭を撫でてくれるニャンコさんに笑みを浮かべられるくらいには落ち着くことが出来た。するといつの間にか私の肩に乗った兎は威嚇するように「セクハラ野郎…」と呟いていた。けれど直ぐさに満面の笑顔を浮かべたニャンコさんの指先で弾かれる。コロン、と可愛らしく毛玉は床を転がった。 「…あの…本当にありがとうございます」 恐る恐る足元の階段に視線をやれば、程遠い場所に次の階の床が見える。ニャンコさんが助けてくれなければ、あの所まで転がり落ちて叩き付けられていたのだと思うと助かった今でも、ゾッとする。ひょっとしたら打ち所が悪くて、なんてこともあったかもしれないのだ。 「気にしなくていいよ。ただし今度は気を付けてね」 ニャンコさんは特に気にした様子もなく、私の頭を撫でている。 「あの、お礼させて下さいませんか」 「ん?お礼ならさっき、もらったからいいよ」 その言葉に先程まであった温もりを思い出し、頬が赤く染まる。そんな私の反応を楽しむように彼は笑った。 けれど、そんなのはお礼にならないと思う。二度も助けられて、ろくなお返しが出来ないなんて。 「でも!何かさせて下さい」 じゃないと気が収まりません!と詰め寄れば「意外と強情だね」と笑われた。そしてニャンコさんは思考を巡らせるに視線を逸らすと、直ぐさに何か思いついたような表情を浮かべた。 「……そうだな」 「はい?」 「デート一回でチャラでどう?」 「…………でー…と?」 聞き慣れない単語に首を傾げれば、ニャンコさんはニッコリと意地悪笑みを唇に浮かべた。まるで罠に嵌める悪魔のように優しく。
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