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ピチピチと窓枠の外では、つがいの鳥が穏やかに歌う。朝特有の眩しい日差しが差し込む部屋の中、少女は身だしなみを気にするように鏡と睨めっこを繰り返していた。
きゅっと結んだ真っ赤なリボンは胸の中央に存在を誇示し、微動な動きでも揺れるスカートの裾を指先で軽く掴む。いつも着ていたドレスより遥かに裾の短く薄い生地に鏡の前の私は曖昧な顔をしていた。
「お嬢様!お時間です!早くしないと遅刻してしまいますー!」
隣で悲鳴に近い声音で、私の周りを急かすようにクルクルと回る小さな兎に首をかしげる。
「それより、この『せーらーふく』という服は似合ってますか?」
「ええ!お嬢様に似合わない服などこの世にも魔界にも存在いたしません…っ!」
「あらあら、ありがとう」
少し大げさな気もしなくはないけれど、キラキラと星をちりばめたような真っ赤な瞳に笑みを一つ零して素直に受け取った。
「ええ!お嬢様は本当に可憐で世界一のお姫様で……………って、お嬢様ぁぁ!このままじゃ本当に遅刻いたしますぅぅ!!」
ついに兎の魔物は泣き出して、小さな前脚で私の足に縋りつくように絶叫した。
「お嬢様の成績に汚点を残せば、私がお父上に抹消されますぅ!」
「まぁ、それは大変!」
怒ったお父様の恐ろしさは誰よりも理解している私はヒョイッと足元で竦んでいた白い毛玉の獣を抱き上げて、世話役に渡された革の鞄を手に取って走りだした。屋敷前にはすでに学校への車が用意され、準備は万全で私が乗り込むだけだけで。
行き先も全てが決められた通りに進む。それが定められているレールの上なのだと知らずに、私は期待ばかりを膨らませていた。
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