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今までの私の世界は屋敷の中の生活、それが全てだった。外への興味はあったけれど、幼い頃から「貴女様には無用な世界ですよ」と年老いた執事を筆頭にメイドや庭師に言い含められてきた。だから外に出れないのは当たり前で必要のないことだと思ってきた。違う、思わなくちゃいけなかった。それがお父様の願いだと知ってしまったから。
けれど唐突に転機が訪れた。だいぶ延ばされていた私の婚約者が決められたのだ。顔も知らない人だけど、伯爵家の男性だという。
それを聞かされて初めて私の中で、外を知りたいという願望が産声を上げた。このまま相手先に嫁げば、世界を知ることなく私は堅牢な牢獄のような屋敷の中で死に絶えるのだろう。そんなは嫌だったから。何もかも知らないまま、人形のように微笑む人生は嫌だったから。だから生まれて初めてお父様の言い付けを破り、人間の学校に入学することを決めた。勿論反対はされたけど無理矢理に最後の我が儘だからと、期間限定の入学で押し切った。唯一の譲歩として魔界ではなく、より安全な人間界での生活になったけれど。けれど悔いはない。そうして私世界を知る許しを得たのだから。
そして、ようやく入学の手続きをした時には、すでに新入生の入学の季節は終わってしまっていて。学園には転校生として通うことになった。
案内されるまま職員室という部屋に足を踏み入れれば、担任だと言う初老の男性は「転校初日に遅刻しそうになる生徒はなかなかいないぞ」と何故か苦笑を浮かべていた。
そして連れていかれたのは人間でひきしめあう空間。教室と呼ばれるその部屋には男女が隙間なく机とセットの木目調の椅子に座っている。初めて見る光景に圧倒されながらも、教師に続くように足を進めた。
その教室に入った瞬間、向けられたのは好奇の視線と騒めき。一斉に向けられた集団の視線にたじろぎながらも歩みを止めず、床より微かに高い教壇の上に立つ。
「あー!静かに!」
未だ騒めく空間を制するためか、シワが眉間に深く刻まれた教師はわざとらい咳払いを数回吐いた。
「今日は転校生を紹介するぞ!……さぁ、挨拶なさい」
促されて前に進み出れば、幾人かの生徒が息を飲む気配。その空気を気にせず極端に短いスカートの裾を両手で軽く持ち上げ、挨拶として最低の礼儀をとれば何故か奇異の視線を受けた。
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