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弾かれたショックのせいか目を回し、少し混乱気味の子を両手で掬いあげて抱える。視線を合わせるように顔の位置まで持ち上げれば、勝ち気そうな赤い目は泣きそうに潤んでいた。
「……お…お嬢様~…」
「めっ!」
くすくす、
そんな私達のやり取りを見つめていたニャンコさんが小さく笑う。まるで最初から全部、知っていたような表情のまま。こうして言葉を喋る兎を見ても動じる気配すらない。やっぱり彼は。
「仔兎だね」
視線を私の腕の中にいる兎に焦点を合わせたまま、静かに黄色い瞳が意味深く細められた。すると何か感付いたのか、兎の獣が毛並みを立たせて殺気立つ。
「まさかお前、わざと挑発するためにお嬢様にっ!」
「さぁ、なんのことかな?」
問いには答えず、黒猫は普段通りの軽薄な笑顔を浮かべると、四季から少し離れ指定の位置に座った。そうして飲みかけのパックジュースの残りを呑気にすすっていた。
「絶対にお前だけは認めないからな!」
素っ気ない彼の反応に神経を逆撫でされたのか、兎は更に怒気を含んだ瞳で睨んだ。けれど柔らかな白い毛先が手のひらの中、微かに怯えるように震えていることに気付く。
そんな子に宥めように、私は優しく毛並みを丁寧に頭から背中へと撫でた。幾度かそれを繰り返せば安心したのか、本物の兎のような真っ赤な瞳が細められる。それでも少し震えていた。
「………あんまりイジメないで下さいね…?」
飲み終わったジュースのストローを口にくわえたまま、興味深くこちらを見つめていた彼に遠慮がちに告げる。するとニッコリと意地悪笑みを浮かべた。
「さぁ?」
それはその子次第かな、と。
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