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「じゃあ、私はそろそろ教室に戻りますね」
食べ終え空になったお弁当を片付けて、腕にした時計を確認して立ち上がる。屋敷に暮らしていた頃は時間に縛られることなく生活していたけれど、人間社会ではそうはいかないらしい。遅刻してしまったら単位がとれないかもしれないのだ。すっかり学園生活に染まりつつある四季は時間配分も出来るようになり始めていた。
先程まで不服そうにしていた兎は落ち着いたようで、長い耳だけポケットから出したまま静かにしている。まだ納得はしてないみたいだけど。
「ん?ああ、もうそんな時間か」
黒猫も自身の腕時計で時間を確認し、立ち上がった四季を仰ぎ見る。けれど座ったまま、その場から動く様子を見せない。
「…サボっちゃ駄目ですよ?」
サボり常習犯のニャンコさんに言っても意味のないことかもしれないが、やはり放っておくことは出来ない。すると彼は考え込む仕草をした後、内緒話でもするみたいに静かに笑った。
「……このまま留年すればウサギちゃんと同学か……いいかもね」
「もう!真面目に聞いて下さいっ」
「ハハッ……まぁ、今日は気分もいいから出ようかな」
そう言いながら、背伸びをする猫のように腕を上げて背筋を伸ばす。
彼の行動の大半は気分で決まる。しかもかなりの気分屋だから手に負えない。天気が悪いから学校に来ない日だってあるのだ。なのに赤点は取らないらしい。世界は意外と理不尽だ。
「……ニャンコさん、ずるい」
私は不満を表すように、頬を少しだけ膨らませる。
未だ慣れない語源に四苦八苦している四季には羨ましいこと、この上ない。テストがあるたび、テスト内容よりも問題の言葉の意味を理解するのに時間をかかっているのが実状なのだ。
「ん?」
「なんでもないですっ!……さぁ、行きましょう」
時間を確認すれば予鈴まであと少し。授業に出る気になったニャンコさんまで遅刻してしまうかもしれない。それは勿体ない。教師陣も彼には手を焼いてるみたいだから、今日みたいに素直に授業に出る機会を潰す訳にはいかない。そうとなれば急がなくては。
「ニャンコさん!早くっ」
「…えー、授業は逃げないって」
「ち・こ・くしますっ」
未だやる気のない、気だるげな黒猫の腕を取り、屋上の踊り場まで引っ張る。その間、彼がニヤニヤと楽しげに笑っていたことに四季は気付かなかった。
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