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「初めまして。白兎 四季と申します。よろしくお願い致します」
口にしたのは、あくまでも人間界で暮らすための偽名。これからはアンジェラという貴族の姫の名を隠し、あくまでも人間として生活するのだから。
「白兎君は北欧から帰国し、未だ日本に慣れていない。皆、親切にしてやるんだぞ」
付け足すように教師は言うと、空いてる席へと促された。
朝礼が終わり、しばらくて始まった授業というものは全てが初めてて驚きの連続だった。
黒板という板に書かれる呪文のような白い文字を頭に入れれば担任はすぐに消してしまって、まるで魔法のよう。
ガリガリ。
周りの人間の真似をしてノートという白紙の束に書いても書いても、不慣れな人間の言葉ではなかなか教師のスピードに追い付かない。時たま、書けないまま次に進んでしまうけれど仕方ない。空白のまま、次の問題を書き込む。
そして追い掛けるのに必死になっていれば、あっという間に初めての授業は終わってしまった。
「白兎さんって、帰国子女なんだね!」
授業の終了を知らせる機械音の鐘の音と共に私を取り囲むように幾人かの男女が声をかけてきた。
私は一限目の現国の教科書を机から片付けながら、その声の一つ一つに丁寧に答える。
「ええ。両親の仕事の関係でこちらに戻ることになりまして」
口からでるのは脚本通りの嘘。お父様なら遥か遠く次元の違う魔界に住んでいるし、私は人間界生まれではない。
嘘を吐くのは気分がいいものじゃない。けれど吸血鬼だと暴かれる訳にもいかず使用人が用意した台詞を思い出しながら口を開く。
「でも白兎さんって、お嬢様みたいだね!アタシ、スカートを広げて挨拶する人初めて見たよ」
漫画みたい、と笑う同年代の少女に首を傾げる。どうやら、あの挨拶は間違っていたよう。
そして彼女の言葉はあながち外れてもいない。私は貴族の一人娘であり、皆からお嬢様と呼ばれているのだから。
口を開こうとした瞬間、再び無機質な鐘の音が私の言葉を遮った。どうやら短い休みが終わりを告げたようだ。
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