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第一章「前世の名と共にあれ」
*
俺は深い眠りの中で夢をみた。
いや、今も見ているのかもしれない。
そのせいか、排水溝の水を抜いた時のように、脳内がぐるぐると渦を巻き飲み込まれていく様な感覚が俺を襲っている。
嗚咽がしないものの受けていて良い気分がする筈も無く、抗おうにも抗えない様な現実だったりするのもまた事実。
そう、夢なのだから。
例えるなら、逆上がりをしようとして廻るにも戻るにも取れない状況。
金縛りに掛った様な状態と言えるやもしれない。
でも、情景自体は悪いものではなかった。
その夢には毎度、見知った男が出てくる。
その男は白銀の髪に白銀の鎧、白銀の毛並みをした馬に跨り、何千、何万もの兵を指揮していた。
成りは屈強でなかれど、凛とした、たくましい男だった。
それでいて『民のために力を使う』勇者の様な男だった。
その姿には見憶えがある。
見憶えのあるはずなのに思いだせない。
少しのシンキング。
すると、どうだろうか、元から知っていた様に記憶が蘇ってくる。
『何を忘れていたのだろうか、これは俺であり、俺じゃない存在じゃないか』。
そんな、そんな簡単な事に思えてしまう。
そう、これは何千年前もの俺の姿。
でも、何故だろう、その記憶は、誰かに付け加えられたように、誰かから与えられたかのようなものにすぎなかった。
実感が湧かないのだ。
風の様に透けていて水の様に指の間から零れ落ちてしまう様な、もう一つの俺の記憶。
それなのに俺は、何かに繋がれたように、その記憶に執着している。
此処は心地が良い。
これもまた記憶と同様に、水に溶け込むように、風が走り抜けるように、自然と同化するような、そんな空間だ。
不意に排水溝の栓が閉まる。
夢が覚める合図だ。
視界が瞼を閉じるようにどんどん薄暗くなっていく。
いつも夢が覚める時はこうだ。
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