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「もしかしてお前は……私に教えてくれたのか?」
おじいさんは気付きました。
もう、この桜は二度と咲かない事に。
土へ還り、魂は天へ昇る事に。
そして紋白蝶は、桜の最期を教えてくれたのだと。
最後の花びらも、遠い空に消えて。
おじいさんに残ったのは、老いた身体と、枯れた桜だけでした。
「――ありがとう」
その言葉が、どこに向けられたものなのか。
おじいさんにも、よく分かりませんでした。
けれど、分かる事が一つ。
「帰ろう……猫、お前も来るか?」
猫は小首を傾げながらも、歩き始めたおじいさんの後ろを、ひょこひょことついてきました。
おじいさんには、まだ明日があります。白い羽を持つ紋白蝶が迎えにくる、その時まで生きるのです。
桜が咲いていた過去ではなく、今という時を。
おじいさんは、そうやって生きていかなければならないのです。
そして桜は、いつまでもおじいさんを見守ってくれるのでしょう。
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