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「そうだねぇ……あたしが好きなのは、この場所さ」
周りにはぽつりと立つ一軒家だけ。足元には、名も分からぬ花。佇むのは、老いたわたしだけのこの場所が?
「ここであたしの両親は知り合ったんだ。だからこの場所は、あたしを生んだ場所みたいなもんさ」
少女はひらひらと舞って、わたしの手を取った。
涙が浮かぶ。本当に伝えてくれるの? わたしの想いは、あの人に届くのかしら?
「ありがとう……お嬢さん」
吹いた春風がわたしの涙を飛ばして、笑顔に変えた。
いいえ、笑顔に変えたのは……少女の優しさ。
「お嬢さん、お名前は?」
「そうだねぇ……おばあさんが好きなあの老人は、あたしを『紋白蝶』って呼んだよ」
「そうなの……ありがとう、紋白蝶さん。わたしは桜。あの人が呼んでくれた、大切な名前よ」
何度言っても足りません。ありがとう、本当にありがとう、紋白蝶さん。
これでわたしは――安心して還れます。
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