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ひら、ひら。
ひらひら、ひら。
舞うように飛ぶ蝶は、おじいさんのよく知る場所へ。
桜の指先に、ひらり。
もう咲く事のない枝に、ふわりと止まりました。
「信じられない……」
おじいさんは驚きました。
桜の木に止まったのは、その紋白蝶だけではなかったのです。
数え切れない紋白蝶が、桜に止まったその姿。
「桜が……咲いた」
その姿は、まるで白い桜が満開に咲いたようでした。
春風になびく、白い蝶々の桜。
あの頃と同じ、桜の匂いまでは運んでくれないけれど。
目の奥が熱くて、手が震えてしまって、おじいさんは、猫を落としてしまった事にも気付きませんでした。
「あぁ……桜が、この桜がまた咲く姿を、見られるなんて……」
辛い時も、嬉しい時も、いつも見守ってくれた桜。
一匹の紋白蝶が、桜からおじいさんの肩に舞い降り、微笑みました。
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